1: :2018/01/29(月) 02:37:59.349 ID:
課長「じゃ、乾杯しようか」
体育会系「オッス!」
後輩「はい!」
女「は~い!」
男「……」グビグビ
女「ちょっとちょっと! 飲むの早すぎ!」
体育会系「お前はいつも早いっつうの!」
男「す、すみません……」
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男「それがまだ……」
課長「いつも決断の早い君らしくないじゃないか」
男「申し訳ありません……」
男「いくつか案はあるのですが、どれもピンと来なくて……」
女「まあまあ! じっくりやりましょ! 焦ってもろくなことないわよ!」
男「うん……」
男「ありがとうございます!」
課長「じゃあ、料理も来たし、改めて乾杯しよう!」
カンパーイッ! カチンッ
後輩「じゃあ僕が皆さんの皿におかずをよそいます」
体育会系「おお、悪いな。唐揚げ多めに頼むぜ」
女「私はサラダ多めにしてね!」
男「!」ゾクッ
男(――殺気!?)
唐揚げに絶対レモン汁かけるマン「……」ゴゴゴゴゴ…
居酒屋に入ってきたその侵入者は、190cmを超える長身であった。
髪は短髪、鼻は西洋人のように高く、唇はぶ厚い。
胸板は岩のように盛り上がっており、まとう雰囲気は肉食獣のそれである。
そして、なにより特筆すべきはその両手。
侵入者は両手にレモンを持っているのだ。
これこそが、彼が『唐揚げに絶対レモン汁かけるマン』と呼ばれるゆえんである。
店員「お客様、困ります! すぐ出ていって――」
唐揚げに絶対レモン汁かけるマン「レモッ!」ブシュッ
店員「ぐぎゃあああああっ!」
店員「目に、目にレモン汁がぁぁぁっ!」ゴロゴロ
唐揚げに絶対レモン汁かけるマン「レモ……」ズシンズシン…
男(こっちに来やがった! 狙いは……唐揚げか!)
男「唐揚げに絶対レモン汁かけるマンがやってきたぞぉぉぉ!!!」
男「よせ、うかつに近づくな!」
後輩「大丈夫ですよ。きっと話せば分かってくれます」スタスタ
後輩「お願いします、帰ってくだ」
唐揚げに絶対レモン汁かけるマン「レモォッ!」ブシュゥッ
後輩「ぎゃああああああっ!」ゴロゴロ
男(後輩……! 新人ゆえの社会経験の少なさが仇になったか!)
続けて
男「先輩!」
体育会系「任せときな! あんなヤツに負けやしねえ!」ズイッ
唐揚げに絶対レモン汁かけるマン「レモ……」ジリ…
男(うう……すごい迫力だ。先輩も身長でかいし……)
女(まるで二頭の怪獣が睨みあってるようだわ……)
課長(どっちが先に仕掛ける……!?)
唐揚げに絶対レモン汁かけるマン「レモッ!」ブシュッ
体育会系「おっと!」サッ
男「やった、かわした!」
体育会系「ボディが……ガラ空きだぜぇ!」グオッ
唐揚げに絶対レモン汁かけるマン「!」
グシャアッ!!!
体育会系(効いてねえ!? しかも今の感触……)
体育会系「こいつ……服の下にもレモンを!?」
男「まずい、先輩よけてええええ!!!」
唐揚げに絶対レモン汁かけるマン「レモォォォォッ!」ブシュゥゥゥゥゥ
体育会系「ぐぎゃああああっ! オレが潰したレモンが汁を噴いた!」
体育会系「目がっ! 目がしみるぅぅぅぅぅ!」ゴロゴロ
男(やられた……! レモンは両手だけじゃなかったのか……!)
男「く、くそっ……!」
課長「このままではかけられてしまう……!」
女「私に任せて!」
女「うっふぅ~ん」ヌギッ…
唐揚げに絶対レモン汁かけるマン「レモ?」
男(わりと美人の女さんの色仕掛け! 意外に効果あるかも……)
女「んぎゃああああああっ!」
女「やだ、濡れちゃった……」ビッショリ…
男「ダメか……! 色仕掛けには、汁で対抗ってか!」
課長「うまい、座布団一枚!」
困ってるのか楽しんでるのかハッキリしろよ課長
男「課長!」
課長「若い頃はよくこういう悪党を退治してきたものさ」
課長「コォォォォ……」
課長「コォォォォォォォォ……呼ッ!」
唐揚げに絶対レモン汁かけるマン「レモ……!」ビクッ
男「おおっ……唐揚げに絶対レモン汁かけるマンが初めて後退した!」
男(これは……イケるのでは!?)
男「課長ォォォォォッ!!!」
男「ここまでか……」
男(俺じゃ唐揚げに絶対レモン汁かけるマンに絶対勝てないことは分かりきってる)
男(もはや俺たちの唐揚げは、レモン汁をかけられる運命なのか……!)
男(レモン汁をかけられず、唐揚げを食う方法……なにかないか!?)
男「そうか、まだ手は残っている!」
唐揚げに絶対レモン汁かけるマン「レモッ!?」
男「うおおおおおおっ!」バクバク
唐揚げに絶対レモン汁かけるマン「レモォォォッ!」
男(無駄だ! 俺は早さが取り柄なんだ!)バクバクバク
男(むろん、食う早さでもな!)バクバクバクバクバク
唐揚げに絶対レモン汁かけるマン「レモ……ッ!」
男「さぁ、かけてみろよ! 唐揚げにレモン汁を!」
男「かけられるわけないよなぁ!? さぁ、どうする!? なんなら吐き出してやろうか!?」
唐揚げに絶対レモン汁かけるマン「レモォ……!」ガクッ
男(や、やった……のか……!?)
男「!?」ギョッ
男(こいつ、喋れるのか……)
男「なぜ、こんなことをした? なぜ、唐揚げにレモン汁をかけるようになったんだ?」
唐揚げに絶対レモン汁かけるマン「……一言では説明できない」
唐揚げに絶対レモン汁かけるマン「明日、皆さんお暇なら時間を頂けないだろうか」
男「えーっと……明日は休日だけど……」
後輩「僕は構いませんよ」
体育会系「オレもいいぜ!」
女「私もー!」
課長「私もかまわんよ。家にいても女房の掃除の邪魔になるしな」
男「いいって」
唐揚げに絶対レモン汁かけるマン「ありがたい……!」
唐揚げに絶対レモン汁かけるマン「では明朝6時に、この近くの駅に集合して下さい」
―駅前―
ブロロロロロ… キキッ
唐揚げに絶対レモン汁かけるマン「皆さん、お待たせしました」
唐揚げに絶対レモン汁かけるマン「では参りましょう。皆さん、この車にどうぞ」
男(結構いい車じゃん)
唐揚げに絶対レモン汁かけるマン「皆さん、乗りましたね?」
唐揚げに絶対レモン汁かけるマン「では出発いたしましょう」
ブロロロロロ…
男(一体どこに連れていかれるんだ……?)
体育会系(まともに喋ることに安心して、ついてきちまったけど)
女(これって結構ヤバイんじゃない……? 拉致されてるようなもんじゃない!)
後輩(ああ……入社一年目でこんな目にあうなんて……)
課長(息子よ、万一のことがあったら母さんを頼んだぞ……!)
唐揚げに絶対レモン汁かけるマン「……」
ッ
男「ここは……!」
女「わぁっ、レモンがいっぱい!」
体育会系「まるで農園じゃねえか!」
唐揚げに絶対レモン汁かけるマン「はい、ここはレモン農園です」
男「ってことは、あんたの正体は――」
唐揚げに絶対レモン汁かけるマン「はい、私はレモン農家なのです」
体育会系「オレ、レモンの木なんて初めて見たぜ!」
女「ホント! 写真撮っちゃお!」パシャパシャ
後輩「うわぁ~……すごいや」
課長「いい眺めだねえ。見てるだけでビタミン補給できるようだ」
男「見た感じ、立派な農園なんだけど……」
男「なんであんたは“唐揚げに絶対レモン汁かけるマン”なんかになってしまったんだ?」
唐揚げに絶対レモン汁かけるマン「はい……」
唐揚げに絶対レモン汁かけるマン「やはり他の柑橘類に比べると、レモンは日本で馴染みがなく」
唐揚げに絶対レモン汁かけるマン「なかなか売れず、厳しい生活を送っていました」
唐揚げに絶対レモン汁かけるマン「しかしそれでも、なんとかやってきたんです」
唐揚げに絶対レモン汁かけるマン「そんな時――」
通行人A『お、こんなとこにレモン農家があるぜ!』
通行人B『レモンといや、飲み会とかで唐揚げにレモン汁かける奴、ありゃ最低だよな!』
通行人A『ああ、最低だ!』
通行人B『唐揚げという極上の食い物に、小便をひっかけるようなもんだよな!』
通行人A『まったくだ。レモンなんて酸っぱいだけでなんの役にも立たねえ!』
通行人B『そうだ、せっかくだから小便ひっかけていこうぜ!』ジョロロロロ…
通行人A『いいね~』ジョロロロロ…
レモン農家『……っ!』
唐揚げに絶対レモン汁かけるマン「この光景を目の当たりにした私は、頭に血が上ってしまい――」
唐揚げに絶対レモン汁かけるマン『レモォォォォォッ!!!』シャキ-ン
通行人A『うわっ、なんだありゃ!?』
通行人B『両手にレモン持ってやがる!』
ギャァァァァァ… メガァァァァァ…
唐揚げに絶対レモン汁かけるマン「“唐揚げに絶対レモン汁かけるマン”となってしまったのです……」
唐揚げに絶対レモン汁かけるマン「唐揚げにレモン汁をかけ続けました」
唐揚げに絶対レモン汁かけるマン「やがて、都市伝説に出てくる“怪人”のような存在になっていたのです」
唐揚げに絶対レモン汁かけるマン「もしあなたに止められなければ、ずっとあのままだったでしょう」
唐揚げに絶対レモン汁かけるマン「本当に感謝しています」
男「そりゃどうも……」
男「で、これからどうするんです?」
唐揚げに絶対レモン汁かけるマン「いさぎよくレモン農園を閉鎖しようと思います」
唐揚げに絶対レモン汁かけるマン「これ以上続けていても、レモンは売れないでしょうし」
男「そうですか……」
体育会系「よかったらレモンを食べさせてもらってもいいか?」
男(真面目な話をしてる時に……)
唐揚げに絶対レモン汁かけるマン「あ、どうぞどうぞ!」
女「じゃ、いただきます!」シャクッ
体育会系「いただきます!」ガブッ
後輩「じゃあ僕も……」ガブ
課長「私も……」ガブ
男(レモン生かじりはヤバイでしょ……顔がしわくちゃになっちゃうって)
女「おいしい! おいしいわ! ヨダレ止まらない!」
後輩「酸っぱいけど、癖になる酸っぱさです!」
課長「うむ、これはいい! お土産に持って帰ろう!」
男(え、マジ……)
男「じゃあ俺も……」ガブッ
男「!!!」ビビビッ
男「おお……これはうまい! 酸っぱいのに、酸っぱいのに……食欲が止まらねえええ!」ゾブゾブ
唐揚げに絶対レモン汁かけるマン「ありがとうございます……」
男(あっ、そうだ!)
唐揚げに絶対レモン汁かけるマン「は、はい?」
男「このレモン……我が社に売って下さい!」
唐揚げに絶対レモン汁かけるマン「へ?」
男「実は俺……俺たち、飲料メーカーの社員なんです」
男「それで今、『スカッとさわやかドリンク』ってプロジェクトを進めてたんですけど」
男「このレモンならきっと、極上の“レモネード”が作れる!」
女「いいかもしれない!」
体育会系「このレモンで作れば絶対売れるぜ!」
後輩「さすが先輩!」
男「いかがでしょう?」
唐揚げに絶対レモン汁かけるマン「ぜひ……よろしくお願いします!」シュゥゥゥゥゥ…
レモン農家「おお……元の体に戻れた!」シャキーン
男「よかったですね!」
女子高生「このレモネード超おいしいよね~!」
高校生「ああ、疲れた時に飲むとスカッとするぜ!」
女子高生「きっとレモンが超いいんだろうね~!」
高校生「レモンってすげえんだな……」
男(もうレモンをバカにする者は誰もいない)
男(これでもう、二度と『唐揚げに絶対レモン汁かけるマン』が現れることがないだろう)
男(だが――)
男「ぷはっ! うちの社のレモネードを飲みながら、食う唐揚げはうまい!」
男「おかげで早食いする癖はなかなか直らないけど……」
テレビ『ここで7時のニュースです』
テレビ『都内の居酒屋に“焼き鳥を絶対串から外すマン”が現れ、多数の被害が――』
男「……」
男(世の中はまだまだこういう“怪人”がいるんだ……)
男(彼らもいつか救われて、元の人間に戻れるといいが――)
おわり
◆
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